高松高等裁判所 平成5年(ラ)78号 決定 1994年1月24日
抗告人
乙野太郎
右代理人弁護士
田本捷太郎
同
横川英一
相手方
ひめぎん総合ファイナンス株式会社
右代表者代表取締役
高重正敏
主文
一 原決定中、抗告人に関する部分を取り消す。
二 相手方の抗告人に対する申立てを却下する。
三 抗告費用は相手方の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨は、主文一、二項と同旨であり、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。
二よって判断するに、民事執行法一八八条で準用する同法五五条の売却のための保全処分の対象となる行為は、所有者及び債務者がする行為に限られ、右以外の者の行為は含まれない。抗告人は、所有者でも債務者でもないことは記録に照らし明らかであるから、抗告人が個有独立の権原に基づいて占有している場合はもちろん、たとえ相手方の主張するような所有者らの執行妨害の意図に従いその補助者として占有する場合であっても、抗告人を相手方として右の保全処分の申立てをすることは許されない。
よって、原決定中、抗告人に関する部分は違法であるから、これを取り消し、相手方の抗告人に対する申立てを却下し、抗告費用は相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官安國種彦 裁判官渡邊貢 裁判官田中観一郎)
別紙執行抗告理由書
記
一 原決定は、抗告人に対し、民事執行法第一八八条、同五五条一項に基づく、売却のための保全処分として発令されたものである。
民事執行法第五五条一項は、債務者(任意競売では債務者又は所有者と読み替えられる)に対し、一定の行為の禁止や一定の行為を命ずることができると規定している。
即ち、条文上債務者又は所有者のみを保全処分の相手方としているのである。
原決定は、債務者又は所有者でない抗告人に対し、保全処分を認めており、取り消しを免れない。
二1 抗告人は平成四年一〇月九日永野美恵子との間で<書証番号略>のとおり、別紙物件目録1〜5の土地(以下本件土地という)のうちの別紙駐車場見取図の番号4、5、7、8部分及び別紙物件目録6の建物(以下本件建物という)、本件建物の敷地につき、土地建物賃貸借契約を締結し、同日賃借権設定の仮登記手続を経由した。
抗告人は永野に対し、平成四年一〇月三〇日、駐車場の三年分の賃料として、七二万円を、本件建物及びその敷地の三年分の賃料として五四〇万円を支払った(<書証番号略>)。
2 抗告人は、申立外細木清に対し、平成五年八月一五日、本件建物を賃料一か月一五万円の約定で転貸し、又同日、本件土地のうちの駐車場見取図の番号4、5、7、8部分を賃料一か月四万円の約定で転貸した(<書証番号略>)。その後細木は抗告人に上記賃料を支払っている(<書証番号略>)とともに本件建物を占有している(<書証番号略>)。
3 抗告人は、<書証番号略>のとおり、現実に占有するために賃借りしたのであるが、永野が、家財道具を残したまま所在不明となったため、抗告人家族は本件建物に引越すことができず、単身者である細木に対して、本件建物を転貸し、駐車場は本件建物と近いため駐車場も細木に転貸したものである。
4 抵当権は目的物の有する担保価値を把握する権利であるから、、抵当権設定者は、抵当権設定後においても、抵当物件に新たな用益関係を設定することを妨げられない。対抗要件を具備した抵当権の設定後に用益権を取得した者は、競売開始決定前に短期賃借権を取得した者(民法第三九五条)を除いて競落人に対抗することができないだけである。
又、民事執行法第四六条二項によれば、差押後も債務者は通常の用法に従い、不動産を収益することができるとされており、この収益の中には第三者に用益させることが含まれることは解釈上争いがない。
さらに、差押の効力が生じた後に賃貸借の期間が満了した場合は、短期賃借権の賃借人は賃貸借の更新を主張できない(最判三八・八民集一七・六・八七一)とされている。
5 以上からすれば、抗告人は真実、用益意思があったものであるが、偶発的事情から細木に転貸するに至ったものであり、執行の妨害を意図したものではなく、かつ前記の事情からして不動産の価値を著しく減じるものとはいえない。
別紙疎明方法<省略>
別紙<省略>